憲法学者の論評を読んで 緊急事態に乗じた改憲策動に警鐘

「まず、はっきりと仕分けしておかなければならないのは、今回の事態は、憲法に『緊急事態条項』を加えるかどうかという議論とは関係がない、ということです。この機に乗じて改憲機運を盛り上げようとする動きには、釘をさしておかなければなりません」――憲法学者の石川健治東京大学教授が『朝日新聞』のインタビューに答えて、コロナ禍に乗じて「緊急事態条項」を憲法に盛り込もうと図る安倍政権を批判するとともに、緊急事態への対応のあり方について語っています。

石川氏は、緊急事態の議論には「何が緊急事態かを問題にし、独裁権力を想定しない『客観的緊急事態』論と、独裁権力を想定し、誰がそれを握るかを論ずる『主観的緊急事態』論がある」と述べるのです。更に、「主観的緊急事態」論の歴史をフランスの王政復古にまで遡り、日本の明治憲法に輸入され天皇による「緊急勅令」(八条)になったと説明しました。

また石川氏は、「緊急事態条項」によって、例外状況が常態化される危険性を指摘します。それは個人が個人でなくなり、ただ統計上の数字のみが踊ることになるのです。「危機であっても、最大多数の最大幸福という功利計算の中に個人を埋没させてはならない」というドイツのメルケル首相のメッセージを、日本国憲法13条と重ねます。そして「『緊急』がアリの一穴になり得ることを自覚し、政府に国民への説明責任を求め続けることが、権威主義へ舵を切るのを防ぎ、自由を守る手立てになる」と警鐘を鳴らしました。

改憲派の集会へのメッセージに改憲への意欲を改めて示した安倍首相に、5月4日付『中日新聞』社説は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」(12条)を示して、「今を生きる私たちの命や暮らしを守ると同時に、先人たちが勝ちとった自由と権利をどう守り、次世代に引き継ぐのか、私たち一人一人の覚悟も問われています」と訴えかけています。