西谷修さん講演「西側世界の解体と日本の自立」

6月15日、東別院会館ホールであいち総がかり行動学習会が開かれました。主催者あいさつで中谷雄二さんはトランプ関税と中東危機に触れ、「日本にとってアメリカに従属して突き進んでいくこの状況は非常に危険ではないのか」と話しました。つづいて、オープニングアクトとして「屋台の珈琲」さんが2曲を熱唱しました。
講演は西谷修さん(哲学者、東京外国語大学名誉教授)の「激動の時代の日本の針路」です。以下に講演内容の一部を紹介します。
激動する世界のすべての大元は、ここ半世紀に渡り世界のリーダーとしてふるまってきたアメリカにあります。トランプが大統領に選ばれたことで、アメリカに専制君主が生まれたと大騒ぎし、日本は右往左往してなんとかしがみつこうとしています。ですが、トランプはただの暴君ではありません。これがむき出しになったアメリカの地金なのです。
ローマ法では、所有者のいない土地は最初に見つけた人のものとなり、私的所有権が認められます。アメリカ移民たちは、「自然の大地は誰のものでもない」という世界観の先住民から土地を収奪して所有権を確立し、「不動産」に転換して売買するようになりました。こうして約束の地に「自由の国」を作ったのです。フロリダやアラスカなども購入して手に入れたことを思い出してください。トランプは不動産屋ですから、グリーンランドを買うとかカナダを51番目の州にするなどと言うのも当然です。「ディールで手に入れるのだから問題ない」というわけです。
イスラエルも、先住民の土地を収奪して建国したのですから、アメリカ合衆国と国家の創設原理を同じくしています。アメリカが擁護する側に回るのは当然と言えます。
アメリカ合衆国が西洋を代表し、文明の中心であるというのが、私たちのデフォルトになったのは世界大戦後のことです。二十世紀になってアメリカはヨーロッパに出兵しますが、それは「世界にアメリカの民主主義をもたらす」というイデオロギーによるものです。第二次大戦には、「ナチズムから自由を守る」と言って参入しました。国土に一度も打撃を受けることなく戦勝国となり、「西側」のリーダーとしてニューヨークに国際連合の本部を置きます。その後は「共産主義」「テロリスト」と敵対する相手を変えてきました。そして次に西側が持ち出してきたのは、「危険な専制主義から民主世界を守る」という図式です。
しかし、損得勘定しか頭にないトランプは、世界を都合良く分断するイデオロギーが嫌いです。同盟国にも高い関税をふっかけ、「アメリカにもたれかかって戦争をするな」と、EUを足蹴にしました。かつて世界一の債権国だったアメリカは、今では債務国なのです。
トランプの登場を待つまでもなく、アメリカが支配する西側の覇権は解体しており、もはやG7はマジョリティではありません。システムが機能しなくなったのに、日本は泥船にすがりついてはいけない。もう「脱亜入欧」ではありません。西側とその敵とは距離をおく第三世界の国々と、バンドン精神を継承・発展させ、新たな平和と協調の秩序を目指すべきでしょう。