自衛官募集問題 21自治体が個人情報「提供」

自衛官募集に関わって、防衛省・自衛隊からの要請に応じて、住民基本台帳の個人情報を提供する自治体が増えてきています。全国では、政令指定都市20のうち、少なくとも10の自治体が、「情報提供」を行っていることが明らかになりました。

2019年2月、安倍前首相が自民党大会で自衛隊員募集に関して「都道府県の6割以上が協力を拒否している」と発言したことが発端となっています。当時は、「実際は約9割の自治体から情報提供を受けている」との声が多数でありましたが、ジワリと自治体に働きかけていることがうかがわれます。
名古屋市では、住民基本台帳から当年度18才になる市民の情報について、これまで一般的な閲覧であったものから昨年「抽出閲覧」に変更。2020年度から宛名シールに印字した1万8731人分の名簿を6月12日に提供するに至っています。名古屋市は「自衛隊法第97条、自衛隊法施行令第120条及び名古屋市個人情報保護条例第11条、第1項第2号の規定」を根拠とする回答を行っていますが、「情報提供」している自治体ほとんどが同様の回答をしています。

問題点をいくつか述べたいと思います。まず住民基本台帳を扱う法律、住民基本台帳法の点です。同法第11条では、法令で定める事務の遂行のために必要な場合に限り、国による住民基本台帳データの一部について閲覧を認めていますが、あくまで「閲覧」を認めているだけで、「提供」まで認める根拠は存在していません。税金の滞納整理事務のために住民基本台帳データを使っている場合でも、国税徴収法で別途その点について規定しています。つまり、両法律間での整合を取っているといえます。

自衛隊法の面からはどうでしょうか。防衛省から各自治体に情報を提供するよう求める文書の内容には、自衛隊法97条と同法施行令120条を根拠としています。同法97条は、自衛官募集に関する事務の一部を自治体に行わせることを明記しています。また同法施行令120条は、自衛官募集に関し市町村長に対し、資料の提出を求めることができる旨明記されています。しかし、住民基本台帳法11条の点からの法律間の整合をとる文言はなく、異なる法律の間で矛盾が生じれば法改正等により整合を取るのが当然だが、そうした手続きは取られていません。

瀬戸市に申し入れ

県平和委員会として、愛知県内54の自治体にアンケートを行いました。回答がある自治体は46となっていますが結果は以下の通りです。住民基本台帳の情報を自衛隊に閲覧させている自治体29。そのうち18才の情報のみ抽出して閲覧させている自治体は26。情報を自衛隊の要請(年齢、氏名、性別、住所)に応じて提供している自治体は20。そのうち宛名シールに印字したものを手渡している自治体は2、また電子媒体で提供している自治体は1でした。以下特徴点は、宛名シールで手渡しした名古屋市と大府市。紙媒体で提供したのは、豊川市、蒲郡市、清須市、半田市、東海市などで、知多半島では、この自衛隊への「提供」業務に限って、住民基本台帳を扱う課から、防災課へと移すなど、政治的な背景が見え隠れしています。「抽出閲覧」となったのは、小牧市、豊明市、津島市、一宮市、岡崎市、豊橋市と中核都市が変化しています。中でも小牧市は、15才への抽出閲覧もおこなっており、15才以下の戦争への参加を禁じる「子どもの権利条約」に反することを行っています。

こういった中、県平和委員会は、全自治体に申し入れを行うためにキャラバン行動を開始しています。提供している自治体では、上記述べた問題点について名古屋市含め、明確な回答をできない自治体が多く、中には次年度以降再検討するなどの回答する自治体もありました。少なくない自治体で、住民基本台帳法上、提供はしないとする回答が目立ちます。中には、「住民基本台帳法提供はできないのではないか?」と明確な発言もありました。

一方で、閲覧している自治体の中でも「判断が分かれる問題について対応に苦慮している」との声もあり、提供への圧力もあることが伺えます。
「私の情報は、私のものであるべき」「個人情報はきちんと守る」の声を大きく広げ、戦争する国づくり許さない運動を草の根から広げる思いです。