自衛官募集問題「情報提供」の法的問題 学習資料

1、住民基本台帳について

(1)憲法13条でいう人格権のうちのプライバシー権によって保護の対象とされている

憲法13条は、国民の自由が公権力に対しても保護されるべきと規定されている。何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示することや公表されない自由を有する。

(2)住民基本台帳法に「情報提供」する根拠がない

住民基本台帳法第11条では、法令で定める事務の遂行のために必要な場合に限り、国による住民基本台帳データの一部について閲覧を認めているが、あくまで「閲覧」を認めているだけで、「提供」まで認める根拠は存在しない。

2、自衛隊法に関わって

(1)法定受託事務に関わって

・自衛官募集事務を行うことを規定しているが、どこまでやるかは記載なし。

(2)住民基本台帳法からみれば、情報提供は違法となる。しかし国会議決にあたらない自衛隊法の施行令が、法律を上回る根拠とならない ※国会で指定した法律ではなく、内閣の判断で制定できる政令にすぎない。

(3)自衛隊法施行令120条に関わって

1)義務規定ではない

募集に関する資料提出を求めることはできるが、応じる義務はない。自治体の判断となる。

また、住民基本台帳の情報についても、直接的な明記はない。

・自衛隊法97条→2003年国会での審議 石破大臣「私どもが依頼をしても、こたえるという義務は必ずしもございません」

2)根拠規定が明記されず

●120条は(募集業務:募集期間の公示、資格調査、受験票の交付、試験期間・会場の公示、広報宣伝)114~119を受けて規定されている。資料提供のなどの要請はここにかかってくるのが普通だ。個人情報の提供の根拠ずけにならない

3、個人情報保護法の改正にあたって

「法令などが定めるとき」を根拠にすることについて。

・基本に情報提供を一律禁止としたうえで、個別の場合を例示することで解除する法令上、例外的に本来の目的外での提供を容認する規定。

・前例でも指摘したとおり、住民基本台帳法に記載されていないものを法律の天秤にもはからず「法令で定めるとき」をもって、提供根拠とするには無理があり、法違反に当たるおそれがある

法令一覧

■住民基本台帳法

第十一条 国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条、次条及び第五十条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するものに閲覧させることを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、総務省令で定めるところにより、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。

一 当該請求をする国又は地方公共団体の機関の名称

二 請求事由(当該請求が犯罪捜査に関するものその他特別の事情により請求事由を明らかにすることが事務の性質上困難であるもの(次項において「犯罪捜査等のための請求」という。)にあつては、法令で定める事務の遂行のために必要である旨及びその根拠となる法令の名称)

三 住民基本台帳の一部の写しを閲覧する者の職名及び氏名

四 前三号に掲げるもののほか、総務省令で定める事項

■自衛隊法

第九十七条 都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官の募集に関する事務の一部を行う。 2 防衛大臣は、警察庁及び都道府県警察に対し、自衛官の募集に関する事務の一部について協力を求めることができる。 3 第一項の規定により都道府県知事及び市町村長の行う事務並びに前項の規定により都道府県警察の行う協力に要する経費は、国庫の負担とする。

■自衛隊法施行令

(募集期間の告示)

第百十四条 二等陸士として採用する陸上自衛官(第百十七条において「二等陸士」という。)又は陸上自衛隊の自衛官候補生の募集期間は、防衛大臣の定めるところに従い、都道府県知事が告示するものとする。

(応募資格の調査及び受験票の交付)

第百十五条 市町村長は、前条の募集期間内にその管轄する市町村の区域内に現住所を有する者から志願票の提出があつたときは、その志願者が防衛省令で定める応募年齢に該当し、かつ、法第三十八条第一項に規定する欠格事由に該当しないかどうかを調査し、応募資格を有すると認めた者の志願票を受理するものとする。

2 市町村長は、前項の志願票を受理したときは、これを当該市町村を包括する都道府県の区域を担当区域とする地方協力本部の地方協力本部長に送付し、これらの者と試験期日及び試験場について協議の上、志願者に受験票を交付するものとする。

(応募資格の調査の委嘱)

第百十六条 市町村長は、前条第一項の志願者の本籍が当該市町村にない場合には、同条同項の調査を志願者の本籍がある市町村の市町村長に委嘱することができる。

(試験期日及び試験場の告示等)

第百十七条 都道府県知事は、当該都道府県の区域を警備区域とする方面総監と協議して二等陸士又は陸上自衛隊の自衛官候補生の採用試験の試験期日、試験場の位置及び名称その他必要な事項を定め、これを告示するものとする。

2 都道府県知事は、自衛隊が管理する場所、施設又は器具(以下この項において「場所等」と総称する。)以外の場所等を二等陸士又は陸上自衛隊の自衛官候補生の採用試験のため使用しようとする場合には、都道府県知事の管理する場所等又は他の者の管理する場所等をその管理者と協議の上、自衛隊に使用させるものとする。

(海上自衛官、航空自衛官等の募集事務)

第百十八条 都道府県知事及び市町村長は、第百十四条から前条までの規定の例により、二等海士として採用する海上自衛官若しくは二等空士として採用する航空自衛官又は海上自衛隊若しくは航空自衛隊の自衛官候補生の募集に関する事務を行う。

(広報宣伝)

第百十九条 都道府県知事及び市町村長は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関する広報宣伝を行うものとする。

(報告又は資料の提出)

第百二十条 防衛大臣は、自衛官又は自衛官候補生の募集に関し必要があると認めるときは、都道府県知事又は市町村長に対し、必要な報告又は資料の提出を求めることができる。

個人情報の保護に関する法律

(利用及び提供の制限)

■個人情報保護に関する法律

第六十九条 行政機関の長等は、法令に基づく場合を除き、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供してはならない。

2 前項の規定にかかわらず、行政機関の長等は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、利用目的以外の目的のために保有個人情報を自ら利用し、又は提供することができる。ただし、保有個人情報を利用目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供することによって、本人又は第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められるときは、この限りでない。

一 本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき。

二 行政機関等が法令の定める所掌事務又は業務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当の理由があるとき。

三 他の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体の機関又は地方独立行政法人に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当の理由があるとき。

四 前三号に掲げる場合のほか、専ら統計の作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき、本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人情報を提供することについて特別の理由があるとき。

■日本国憲法

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。