日韓両国政府の対決ではなく対話を通じた問題解決を求める

日韓関係が悪化の一路をたどっている。

日本政府は,本年6月19日、韓国政府の提案した徴用工・勤労挺身隊問題の解決構想案について直ちに拒否の意思を明らかにしたことに続き、7月1日には、半導体核心素材など3品目の韓国への輸出手続きを強化することを公表し,さらに韓国を「ホワイト国」から除外する閣議決定を行った。
日本の外務省は、今回の輸出規制措置が徴用工・勤労挺身隊問題に関する韓国大法院判決問題とは無関係であると説明している。しかし,安倍首相自ら「1965年に請求権協定でお互いに請求権を放棄した。約束を守らない中では、今までの優遇措置はとれない」と語り(7月3日日本記者クラブ党首討論),日本のマスコミの多くも今回の措置が韓国大法院判決への対抗措置であると論じているように,輸出規制措置と徴用工・勤労挺身隊問題は関連性があるとの見方が有力である。

日本政府は,韓国大法院が徴用工・勤労挺身隊被害者の日本企業に対する慰謝料請求を認めたことを取り上げて,韓国は「約束を守らない」国であると繰り返し非難している。

しかし,韓国大法院は,日韓請求権協定を否定したわけではなく,日韓請求権協定が維持され守られていることを前提にその法解釈を行ったのであり,昨年11月14日,河野外務大臣も,衆議院外務委員会において,個人賠償請求権が消滅していないことを認めている。

そもそも,原告らは,意に反して日本に動員され,被告企業の工場等で賃金も支払われず過酷な労働を強いられた人権侵害の被害者である。この被害者に対し,日本企業も日韓両国政府もこれまで救済の手を差し伸べてこなかった。そこで,被害者自らが人権回復のための最後の手段として韓国国内での裁判を提起したのである。

法の支配と三権分立の国では,政治分野での救済が得られない少数者の個人の人権を守る役割を期待されているのが司法権の担い手である裁判所であり,最終的にはその司法判断が尊重されなければならないとされている。

徴用工・勤労挺身隊問題に関する韓国大法院判決は,まさに人権保障の最後の砦としての役割を果たしたものといえるのであり,評価されこそすれ非難されるべきものではない。

それに加えて何よりも問題なのは,人権侵害を行った日本企業や,それに関与した日本政府が,自らの加害責任を棚に上げて韓国大法院判決を非難していることである。

被害者である原告は,日本で最初に裁判を始めてから20年以上を経て自らの権利主張が認められたのである。被害者の権利主張を認めた韓国大法院判決を非難するということは,被害者の法的救済を妨害し,さらに被害者に新たな苦しみを与えるものと言わざるを得ない。日本国憲法により普遍性を有する個人の人権を尊重しなければならないと命じられている日本政府の取るべき態度ではない。

私たちが望むものは,日韓両国政府の対決ではなく,対話を通じた問題解決である。被害者の被害実態に誠実に向き合うことなく,被害者を蚊帳の外に置いたまま,国家間の政治的対立に明け暮れる姿勢は,直ちに改めるべきである。

今の悪化した日韓関係を改善するためには,徴用工・勤労挺身隊問題の解決は避けて通ることのできない課題である。被害者と日本企業との間で徴用工・勤労挺身隊問題の解決のための協議の場が設けられ,日韓両国政府がそれを尊重する姿勢をとることこそ,日韓関係改善に向けた確実な第一歩になると確信している。

私たちは,改めて,訴訟の被告である日本企業に対して,徴用工・勤労挺身隊問題の解決について協議を開始することを求める。

また,日韓両国政府に対して,当事者間での自主的な協議を尊重し,当事者間の協議を経て具体化されるであろう徴用工・勤労挺身隊問題の解決構想の実現に協力するよう求める。
2019年8月11日

強制動員問題の正しい解決を望む韓日関係者一同
(韓国)
金世恩(弁護士、日本製鉄、三菱、不二越訴訟代理人)
林宰成(弁護士、日本製鉄、三菱、不二越訴訟代理人)
李尚甲(弁護士、三菱勤労挺身隊訴訟代理人)       
金正熙(弁護士、三菱訴訟代理人)
李国彦(勤労挺身隊ハルモニと共にする市民の会常任代表)
李煕子(太平洋戦争被害者補償推進協議会共同代表)
金敏喆(太平洋戦争被害者補償推進協議会執行委員長)   
金英丸(民族問題研究所対外協力室長)
(日本)
足立修一(弁護士)
岩月浩二(弁護士)
大森典子(弁護士)
川上詩朗(弁護士)
在間秀和(弁護士)
張 界満(弁護士)
山本晴太(弁護士)
高橋 信(名古屋三菱・朝鮮女子勤労挺身隊訴訟を支援する会共同代表)
平野伸人(韓国の原爆被害者を救援する市民の会長崎支部長)
矢野秀喜(朝鮮人強制労働被害者補償立法をめざす日韓共同行動事務局長)北村めぐみ(広島の強制連行を調査する会)